後期高齢者となる節目に若い頃できなかったクラシックギターに挑戦。途中であきらめないようにと思い切って高額なギターを買った。

右手は弾くべき弦を間違える。特に左手ときたら、薬指と小指の動きはぎこちなく、弦をしっかり押さえられない。指が思うように開かず、押さえるべきポジションに届かない。

「よし、左手の練習だ。まず、左手で箸を持とう!」

茶碗を洗うにもスポンジやタワシは左手で持つ。すると効果が現れ始め、少しずつ左手が使えるようになってきた。

先生は高校のクラブ活動でも教えている女性で、弾き方のイロハから、ギターの弦の交換、さらに放っておくとすぐ割れてしまう爪の手入れまで、丁寧に教えてくれる。下手で不器用な私を、音楽が文字通り楽しめるよう優しく気遣ってくれる。おかげで五線譜にも慣れた。懐かしい子どもの「唱歌」から始まったレッスンだが、高価なギターのおかげで柔らかい音色に聞き惚れたりする。

1年経ち、指を大きく開く必要があり、リズムも間違えやすい「ドナドナ」も弾けるようになった。達成感がある。時折、練習曲が頭の中に浮かんでくる。気がつくと口ずさんでいることさえある。ギターがこんなにも楽しいものだとは思わなかった。

音楽が身近になった喜びは大きい。遅い挑戦であっても、「あらまほしき先達」の先生に出会えたからこそ開かれた世界である。